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越境学習とは?VUCA時代に注目される人材育成の仕組みとその効果

「越境学習って何のこと?」

「社内研修とどう違うの?」

「導入すると具体的にどんな効果があるの?」

このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか?

越境学習とは、従業員が所属する企業や部署の枠を超えて、異なる環境で働きながら新たな知見やスキルを獲得する人材育成手法です。

本記事では、越境学習の基本的な仕組みから注目される背景、具体的な効果まで分かりやすく解説します。

理解することで人材育成の新たな選択肢を知ることができ、今後のビジネスチャンスも見つけやすくなるでしょう。

この記事で分かること

・越境学習の基本的な仕組みと従来手法との違い
・VUCA時代に注目される理由と経済産業省の取り組み
・主要な提供企業と具体的な活用事例

分かりやすく解説しているので、ぜひお読みください。

越境学習とは?基本的な仕組みを解説

越境学習とは、従業員が現在所属する企業や部署を離れ、異なる環境で実際に業務を行いながら学ぶ人材育成手法です。

実は、この概念は1990年代から存在していました。

一般的には新しい取り組みと思われがちですが、法政大学大学院の石山恒貴教授により「ホームとアウェイを行き来することによる学び」として定義されています。

従来の座学中心の研修とは異なり、実際の業務を通じて実践的なスキルを身につけることが特徴です。

越境学習の基本定義と特徴

越境学習の「越境」とは、組織の境界を越えるという意味です。

具体的には他社への出向、NPOでのボランティア活動、異業種交流会への参加、ワーケーションなどが含まれます。

最大の特徴は、慣れ親しんだ環境から意図的に離れることで、新たな価値観や働き方に触れる点にあります。

例えば、大手企業の社員がベンチャー企業で働くことで、スピード感のある意思決定プロセスを体験できます。

このような非日常的な環境での経験が、従来の業務では得られない気づきや学びを生み出すのです。

従来の社内研修との根本的な違い

従来の社内研修は知識習得が中心でしたが、越境学習は実践を通じた体験学習です。

社内研修では同じ組織の価値観や文化の中で学習が進むため、既存の枠組みを超えた発想は生まれにくくなります。

一方、越境学習では異なる組織文化に身を置くことで、自然と多角的な視点を獲得できます。

実際に経済産業省の調査でも、座学型研修では限界があることが指摘されています。

MOOCs(大規模公開オンライン講座)で知識は習得できる時代だからこそ、実践的な経験の価値が高まっているのです。

ホームとアウェイを行き来する学習プロセス

越境学習の核心は「ホーム」と「アウェイ」を往復することにあります。

ホームは普段の職場環境、アウェイは越境先の新しい環境を指します。

このプロセスで重要なのは、単に新しい環境に行くだけでなく、ホームに戻って経験を振り返ることです。

越境先での体験をホームの組織に還元することで、個人だけでなく組織全体の成長につながります。

実際に越境学習を経験した人材の多くが、自社の強みや改善点を客観視できるようになったと報告しています。

越境学習と類似手法との違い

越境学習と混同されやすい他の人材育成手法との違いを明確に理解することが重要です。

実は多くの企業で、越境学習と類似手法の区別が曖昧なまま導入が検討されています。

それぞれの手法には異なる目的と効果があるため、正しい理解が成功の鍵となります。

社内研修・OJTとの違い

社内研修やOJTは組織内での学習に特化した手法です。

一方、越境学習は組織の枠を超えた外部環境での実践学習を重視します。

社内研修では既存の組織文化や価値観の範囲内での学びとなりがちですが、越境学習では全く異なる価値観に触れることができます。

例えば、製造業の社員がIT企業で働くことで、デジタル化への理解が深まると同時に、自社の製造ノウハウの価値を再認識できます。

OJTが深化型の学習なら、越境学習は探索型の学習と言えるでしょう。

副業・兼業との違いと共通点

副業・兼業と越境学習は、どちらも組織外での活動という共通点があります。

しかし副業・兼業は個人の収入向上やキャリア形成が主目的である一方、越境学習は組織的な人材育成が目的です。

副業は個人的な活動であることが多いのに対し、越境学習は企業が制度として導入し、組織への還元を前提としています。

また、越境学習では越境先での経験を自社に持ち帰ることが重視されます。

企業側も越境学習を投資として捉え、従業員の成長を組織の発展につなげようとする姿勢が特徴的です。

留学・海外研修との違い

留学や海外研修は主に語学力や国際感覚の向上を目指します。

越境学習は言語や地域を超えた、より広義の「境界」を越える概念です。

留学では学習環境が中心となりますが、越境学習は実際の業務環境での経験を重視します。

例えば、国内のNPOでの活動や異業種企業での業務も越境学習に含まれます。

地理的な境界だけでなく、業界、職種、組織文化など様々な境界を越えることで、多様な学習機会を創出するのが越境学習の特徴です。

越境学習が注目される理由

越境学習が企業の人材育成手法として急速に注目を集めている背景には、時代の変化があります。

2020年代に入り、約8割の企業が越境学習を重要視しているという調査結果も発表されています。

この高い関心の背景には、従来の人材育成手法だけでは対応できない課題が顕在化していることがあります。

VUCA時代に対応した人材育成の必要性

現代はVUCA時代と呼ばれ、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が飛躍的に高まっています。

越境学習は、このような予測困難な環境変化に対応できる人材を育成する手法として期待されています。

従来の専門性重視の人材育成では、急激な環境変化への適応が困難になってきました。

例えば、デジタル化の波により、多くの業界で既存のビジネスモデルが根本的な見直しを迫られています。

越境学習を通じて異なる環境を経験することで、変化への適応力や新たな視点を獲得できるのです。

経済産業省「未来の教室」事業での推進

経済産業省は2018年から「未来の教室」プロジェクトを立ち上げ、越境学習を積極的に推進しています。

同プロジェクトでは、様々な業種の企業人が社会課題の現場に向き合う機会を提供しています。

具体的には、NPOや地方自治体などに企業人を派遣し、リアルな課題解決に取り組ませるプログラムを実施中です。

「越境学習によるVUCA時代の企業人材育成」として、200名以上が参加してきました。

政府がこのような取り組みを推進する背景には、日本企業の国際競争力向上への危機感があります。

従来の人材育成手法の限界

日本企業の従来の人材育成は、OJTや社内研修に依存する傾向がありました。

しかし同質的な環境での学習では、イノベーションに必要な多様な視点を獲得することが困難です。

実際に多くの企業で、新規事業創出や組織変革を担える人材の不足が深刻な課題となっています。

越境学習は、自社では提供できない「修羅場経験」や「経営視点の獲得」機会を提供できます。

例えば、大企業の中間管理職がベンチャー企業で事業開発に携わることで、スピード感のある意思決定力を身につけることができるのです。

越境学習を開発・提供している主要企業

越境学習市場の拡大に伴い、多様なサービスを提供する企業が登場しています。

現在、累計270社・7000名以上の支援実績を持つ企業も存在するなど、市場は急速に成長中です。

各社が独自のアプローチで越境学習プログラムを開発し、企業のニーズに応えています。

ローンディール(レンタル移籍)

株式会社ローンディールは、越境学習分野の先駆的企業として2015年に創業されました。

同社の「レンタル移籍」は、大企業の社員が半年から1年間フルタイムでベンチャー企業に移籍するプログラムです。

これまでに大企業100社・累計800名以上に越境学習機会を提供してきました。

例えば、NTTドコモの社員がベンチャー企業で事業開発を経験し、経営者視点を獲得した事例があります。

参加者の多くが「自社では得られない修羅場経験」を積み、組織変革の推進力となっています。

エンファクトリー(副業型越境学習)

株式会社エンファクトリーは、副業として越境学習を行うサービスを提供しています。

3ヶ月間、業務時間の20%を使ってベンチャー企業で働く「副業型越境学習」が特徴です。

累計270社・7000名以上の支援実績を持ち、導入企業の離職率低下に貢献しています。

同社の調査では、越境学習経験者の離職につながった事例はゼロという結果が出ています。

むしろ他社を知ることで自社の良さを再発見し、本業への意欲が向上するケースが多いのです。

日本能率協会マネジメントセンター(ワーケーション型)

株式会社日本能率協会マネジメントセンターは、地域を舞台とした越境学習プログラムを展開しています。

「非日常に身を置き、出会いや体験から気づきや学びを得る」をモットーに、ワーケーション型の越境学習を提供中です。

総務省の「地方創生×越境学習」の取り組みにも活用されています。

地域の社会課題解決に取り組むことで、参加者は新たな価値観や働き方を体験できます。

このアプローチにより、人材育成と地域活性化の両方を実現する仕組みを構築しています。

越境学習の活用事例

越境学習の導入効果を示す具体的な事例が多数報告されています。

実際に導入した企業では、人材の意識変化や新規事業創出など、様々な成果が確認されています。

特に次世代リーダー育成と新規事業開発の分野で顕著な効果が現れているのが特徴です。

大手企業の次世代リーダー育成事例

NTTドコモでは、法人営業に長年携わってきた社員が越境学習を通じて経営者視点を獲得しました。

1年間のレンタル移籍でベンチャー企業の事業開発に深く関わった結果、「経営者視点が身についた」と本人が実感しています。

村田製作所や京セラなどの製造業大手でも、研究開発人材の越境学習が活発化しています。

通常は顧客から離れた場所で業務を行う研究者が、事業企画や顧客対応を経験することで新たな視点を獲得中です。

越境学習を経験した人材が自社に戻った後、新規事業の立ち上げや大幅な業務改善を実現した事例も多数報告されています。

新規事業開発人材の育成事例

NTTドコモの入社7年目社員は、「新規事業開発の経験を積みたい」という理由で越境学習に参加しました。

1年間のベンチャー企業での経験を通じて、事業開発のプロセスを実践的に学習できました。

帰任後は自社での新規事業コンテストで優秀な成績を収め、実際の事業化にも貢献しています。

JAL(日本航空)では、社員が地方のNPOや社会的企業で社会課題解決に取り組むプログラムを実施中です。

これらの経験により、社員は従来のサービス業の枠を超えた発想力を身につけ、新たなサービス開発に活かしています。

まとめ【越境学習の今後の展望と企業への影響】

越境学習は、VUCA時代に対応した人材育成手法として、今後さらに重要性が高まると予想されます。

経済産業省の推進により制度的な基盤が整備され、多くの企業で導入が進んでいます。

従来の社内研修では限界があった「実践的な経験学習」を可能にする手法として、人材育成の新たなスタンダードになりつつあります。

組織の枠を超えた学習により、変化への適応力とイノベーション創出力を持った人材の育成が期待できるでしょう。

企業にとって越境学習は、単なる研修制度を超えた戦略的な投資として位置づけられるようになっています。