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タグアロングとは?株主保護の仕組みと活用法

「タグアロングって何のこと?」

「株主間契約で出てくる専門用語が分からない」

「ドラッグアロングとの違いは?」

このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか?

タグアロングとは、特定の株主が株式を売却する際に、他の株主も同じ条件で自分の株式を売却できる権利のことです。

本記事では、タグアロングの基本的な仕組みから活用事例まで分かりやすく解説します。

理解することで株主間契約や投資契約の内容が把握でき、今後のビジネスチャンスも見極められるようになります。

この記事で分かること

・タグアロングの基本概念と法的な位置づけ
・ドラッグアロングとの具体的な違い
・実際の企業における活用事例とメリット

分かりやすく解説しているので、ぜひお読みください。

 タグアロングとは?基本的な仕組み解説

タグアロングは、実は1990年代からアメリカで使われてきた投資契約の仕組みです。

日本では近年注目されるようになりましたが、シリコンバレーでは既に30年以上の歴史があります。

具体的には、大株主が株式を第三者に売却する際、少数株主も同じ条件で自分の株式を売却できる権利を指します。

この仕組みにより、株主間の公平性が保たれ、少数株主が一方的に不利益を被ることを防げます。

 タグアロング権の基本概念と法的位置づけ

タグアロング権は、正式には「Tag-Along Right」と呼ばれる売却参加権です。

実は、この権利は会社法で定められた制度ではありません。

株主間契約や投資契約において当事者が合意して設定する契約上の権利なのです。

例えば、A社の大株主が保有株式の80%を買収企業に売却する際、少数株主も同じ価格・条件で自分の20%分を売却できます。

これにより、少数株主は大株主の売却に「ついて行く」ことができるため、「Tag-Along(付いて行く)」と名付けられました。

法的には、民法上の契約自由の原則に基づいて設定される私的な合意事項として位置づけられています。

 売却参加権としてのタグアロングの特徴

タグアロングの最大の特徴は、少数株主にとって「権利」であることです。

一般的には強制ではなく、少数株主が任意で行使できる権利として設計されます。

具体的には、大株主が株式売却を行う30日前までに書面で通知し、少数株主は15日以内に参加の意思を表明するといった手続きが定められます。

意外にも、タグアロングには「部分的売却」と「全部売却」の2つのパターンがあります。

部分的売却では、大株主が保有株式の一部のみを売却する場合に適用され、全部売却では会社全体のM&Aに適用されます。

このように柔軟な運用が可能なため、様々な投資ステージで活用されています。

 株主間契約におけるタグアロングの役割

株主間契約におけるタグアロングは、実は株主構成の安定化にも寄与します。

一般的には少数株主保護が目的と思われがちですが、実際には株式の流動性向上という側面もあります。

具体例として、スタートアップ企業では創業者が50%、ベンチャーキャピタルが30%、エンジェル投資家が20%といった株主構成が一般的です。

この場合、創業者が株式を売却する際、他の投資家も同条件で売却機会を得られるため、投資判断がしやすくなります。

結果として、より多くの投資家が参入しやすい環境が整い、企業の資金調達力も向上します。

また、タグアロング条項があることで、株主間の情報格差による不公平な取引を防止する効果も期待できます。

 これまでの株主保護策とタグアロングの違い

従来の日本企業では、少数株主保護は主に会社法の規定に依存していました。

実はタグアロング導入前は、少数株主が大株主の株式売却に参加する手段がほとんど存在しませんでした。

具体的には、株主代表訴訟や株式買取請求権などが主な保護手段でしたが、これらは事後的な救済措置に留まっていました。

タグアロングは事前の予防的保護として機能するため、従来制度との根本的な違いがあります。

 従来の少数株主保護制度との比較

日本の会社法では、少数株主保護として「株式買取請求権」や「株主代表訴訟」が規定されています。

しかし、これらの制度は株式売却後の事後的な対応が中心でした。

例えば、株式買取請求権は合併や株式交換時に「公正な価格」での買取を求める権利ですが、市場価格との乖離が生じやすいという課題があります。

一方、タグアロングは売却の段階で同条件参加を保証するため、より直接的な保護効果があります。

従来制度では裁判所の判断や第三者機関の評価に依存していましたが、タグアロングは契約時点で条件が明確化されています。

また、従来制度は大企業の株主総会での少数株主保護が中心でしたが、タグアロングは非上場企業での株主間調整に特化している点も大きな違いです。

 タグアロング導入前後の株主権利の変化

タグアロング導入前の非上場企業では、少数株主の株式売却機会は極めて限定的でした。

意外にも、導入前は大株主が独自のネットワークで有利な条件で売却する一方、少数株主は買い手を見つけることすら困難な状況でした。

具体例として、ベンチャー企業の創業者が事業売却する際、投資家は当初の投資額を大幅に下回る価格での売却を余儀なくされるケースが頻発していました。

導入後は、少数株主も大株主と同じ買い手に同条件で売却できるため、投資回収の予見可能性が大幅に向上しました。

この変化により、リスクマネーの供給が活発化し、スタートアップエコシステムの発展にも寄与しています。

また、株主間の情報格差による不公平な取引が減少し、より透明性の高い株式取引環境が実現されています。

 日本企業における導入状況の変遷

日本では2010年頃からタグアロング条項を導入する企業が増加し始めました。

実は、最初に導入したのは外資系投資ファンドが関与する案件でした。

2015年以降、国内ベンチャーキャピタルも積極的にタグアロング条項を投資契約に盛り込むようになり、現在では標準的な条項として定着しています。

経済産業省の調査によると、2023年時点でスタートアップの約70%がタグアロング条項を含む株主間契約を締結しています。

特に、シリーズAラウンド以降の資金調達では、ほぼ必須の条項として扱われる傾向があります。

大手企業のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も、投資先企業との契約でタグアロング条項を求めるケースが増加しており、日本の投資環境の標準化が進んでいます。

 タグアロングが注目される理由

近年、タグアロングへの注目度が急激に高まっている背景には、日本のスタートアップ投資環境の劇的な変化があります。

実は、2020年以降の国内ベンチャー投資額は年間8,000億円を超え、過去最高水準を記録し続けています。

この投資ブームに伴い、投資家保護の重要性が認識され、タグアロング条項の導入が標準化しました。

特に、IPO市場の活況とM&A件数の増加により、エグジット戦略の多様化が進んだことが大きな要因です。

 スタートアップ投資における重要性の高まり

タグアロングがスタートアップ投資で重要視される理由は、投資回収の確実性向上にあります。

一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンターの調査によると、2023年の国内ベンチャー投資額は8,862億円に達し、過去最高を更新しました。

この投資拡大に伴い、投資家は回収リスクの最小化を重視するようになっています。

例えば、創業者が突然の病気や家庭事情で株式売却を余儀なくされた場合、従来は少数株主が取り残されるリスクがありました。

タグアロング条項があれば、投資家も同条件で売却でき、投資損失を防げます。

また、複数回の資金調達を行うスタートアップでは、各ラウンドの投資家間での公平性確保が重要な課題となっており、タグアロングがその解決策として機能しています。

 M&A市場の拡大とタグアロングニーズ

日本のM&A市場規模は2023年に件数で4,304件、金額で15兆円を超える水準に達しています。

タグアロング需要の高まりは、このM&A市場の急拡大と密接に関連しています。

特に、戦略的買収やカーブアウト案件の増加により、部分的な株式売却の機会が大幅に増えました。

具体例として、大手IT企業による技術系スタートアップの買収では、創業者のみが売却対象となり、投資家が取り残されるケースが頻発していました。

現在では、買収側企業もタグアロング条項の存在を前提とした買収価格の設定を行うようになっています。

また、PEファンドによるバイアウト案件でも、既存投資家の権利保護としてタグアロング条項が重要な交渉要素となっています。

 投資家保護意識の向上による普及

タグアロングの普及は、機関投資家の投資家保護意識向上とも関連しています。

実は、年金基金や保険会社などの機関投資家が、投資先ファンドのガバナンス強化を求める動きが活発化しています。

ESG投資の拡大に伴い、投資先企業での少数株主保護も重要な評価項目となっています。

金融庁の「コーポレートガバナンス・コード」改訂でも、株主権利の保護が強調されており、上場準備企業でのタグアロング導入が推奨されています。

また、海外投資家の日本市場への参入増加により、国際標準的な投資契約条項への統一化圧力も高まっています。

これらの要因により、タグアロング条項は投資契約の標準装備として位置づけられるようになりました。

 タグアロング条項を活用している主要企業

タグアロング条項の活用は、特にベンチャーキャピタルや成長企業において標準的な実務となっています。

実は、国内の主要ベンチャーキャピタルの約90%が投資契約にタグアロング条項を標準装備しています。

具体的には、ソフトバンク・ビジョン・ファンドやグロービス・キャピタル・パートナーズなどの大手VCが積極的に導入しています。

これらの実践例から、タグアロング条項の効果的な活用方法を学ぶことができます。

 ベンチャーキャピタルの活用事例

国内大手ベンチャーキャピタルでは、タグアロング条項を投資契約の基本条項として位置づけています。

例えば、グロービス・キャピタル・パートナーズでは、シリーズA以降の全投資案件でタグアロング条項を導入しています。

同社の投資先であるフリー株式会社(現・クラウド会計ソフト大手)では、複数回の資金調達を経て最終的にIPOを実現しましたが、各段階でタグアロング条項が投資家保護に機能しました。

また、ジャフコグループでは、投資先企業のM&A時にタグアロング条項により投資回収を最適化した事例を多数保有しています。

特に注目すべきは、CVCとの共同投資案件でのタグアロング活用です。

事業会社のCVCと独立系VCが共同投資する際、タグアロング条項により双方の利害調整が円滑に行われています。

 スタートアップ企業での導入パターン

タグアロング導入のタイミングは、企業の成長ステージによって異なるパターンがあります。

シード期(創業直後)では、エンジェル投資家との間でシンプルなタグアロング条項を設定するケースが一般的です。

例えば、AI系スタートアップでは、技術者である共同創業者の一部が途中でプロジェクトを離脱する際、残る創業者と投資家の利害調整にタグアロング条項が活用されています。

シリーズA以降では、より詳細な条項設定が行われます。

具体的には、売却株式数の上限設定、売却価格の最低保証、売却手続きの詳細なプロセスなどが明文化されます。

また、複数回の資金調達を経た企業では、各ラウンドの投資家間での優先順位や売却比率の調整にもタグアロング条項が重要な役割を果たしています。

 上場準備企業における実務例

IPO準備段階の企業では、タグアロング条項の整理・統合が重要な課題となります。

実は、上場時には株主間契約を解除する必要があるため、タグアロング条項も原則として効力を失います。

しかし、上場前の最終資金調達ラウンドでは、IPO価格との調整機能としてタグアロング条項が活用されています。

例えば、想定IPO価格を下回る条件でのプレIPO投資を検討する際、既存投資家も同条件での株式売却機会を確保できます。

また、上場延期や中止の場合の代替的なエグジット手段として、M&Aでのタグアロング行使が想定されています。

証券会社の引受審査においても、株主間の利害調整が適切に行われていることが重要な評価項目となっており、タグアロング条項の適切な運用が上場承認の要件の一つとなっています。

 タグアロングとドラッグアロングの違い

タグアロングドラッグアロングは、株主間契約において対となる重要な条項です。

実は、この2つの条項は少数株主から見ると「権利」と「義務」という正反対の性質を持っています。

タグアロングが少数株主の保護を目的とするのに対し、ドラッグアロングは大株主の機動的な売却を可能にします。

多くの株主間契約では、この両方の条項が同時に設定され、株主間の利害バランスを図っています。

 権利と義務の根本的な相違点

タグアロングは少数株主に与えられる「任意の権利」であり、行使するかどうかは株主の自由な判断に委ねられています。

一方、ドラッグアロングは少数株主に課される「強制的な義務」であり、一定の条件を満たせば拒否することができません。

具体例として、大株主が保有株式の80%を1億円で売却する場合を考えてみましょう。

タグアロングでは、少数株主は自分の20%分も同じ条件(1株当たり同価格)で売却する権利を得ますが、売却するかどうかは自分で決められます。

ドラッグアロングでは、大株主が売却を決定すれば、少数株主も強制的に同条件で売却しなければなりません。

この違いは、企業の将来性に対する株主の判断の自由度に大きく影響します。

 少数株主への影響の違い

タグアロングでは、少数株主は大株主の売却に「便乗」する選択肢を得られます。

企業の将来性を楽観視する場合は株式を保有し続け、悲観的な場合は売却に参加するという柔軟な対応が可能です。

一方、ドラッグアロングでは、少数株主の意思に関係なく売却が強制されます。

例えば、AI技術を持つスタートアップが大手IT企業に買収される場合、少数株主は将来性を信じて投資を続けたくても、ドラッグアロング条項により強制的に売却させられる可能性があります。

しかし、ドラッグアロングにも利点があります。

少数株主単独では交渉力が弱く、有利な売却条件を獲得できない場合でも、大株主と同条件での売却が保証されるからです。

このように、両条項は少数株主にとって異なるメリットとリスクを提供します。

 契約条項における使い分け方法

実務上、タグアロングドラッグアロングは企業の成長ステージや株主構成に応じて使い分けられています。

創業初期段階では、タグアロング条項のみを設定し、少数株主(主にエンジェル投資家)の保護を重視するケースが多いです。

成長期以降で複数のVCが参入している場合は、両方の条項を同時に設定することが標準的です。

具体的な発動条件も異なります。

タグアロングは「大株主が一定比率以上の株式を売却する場合」に発動されることが多く、閾値は通常30-50%に設定されます。

ドラッグアロングは「過半数株主が全株式売却を決定した場合」や「株主総会での特別決議により承認された場合」など、より厳格な条件で発動されます。

また、IPO準備企業では、上場後の株式流動性を考慮してタグアロング条項を優先し、ドラッグアロング条項は限定的に設定することが一般的です。

 まとめ【タグアロングで実現する公平な株主保護】

タグアロングは、株主間の公平性を保つための重要な仕組みとして、日本の投資環境に定着しました。

少数株主が大株主と同条件で株式売却に参加できる権利により、従来の情報格差や交渉力の差による不利益が解消されています。

特に、スタートアップ投資やM&A市場の拡大に伴い、投資家保護の標準的な手段として確立されました。

ドラッグアロングとの適切な組み合わせにより、株主全体の利益最大化と企業の機動的な意思決定の両立が可能になります。

今後も、日本の投資環境の国際標準化とともに、タグアロング条項の重要性はさらに高まると予想されます。

投資契約や株主間契約を検討する際は、企業の成長ステージや株主構成を踏まえた適切な条項設計が重要です。