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wasmとは?Webブラウザで高速動作する次世代技術を徹底解説

「wasmって最近よく聞くけど、一体何のこと?」「JavaScriptより速いって本当?」「どんな場面で使われているの?」

このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか?

wasm(WebAssembly)は、Webブラウザ上で高速動作するバイナリ形式のコード実行技術です。

従来のJavaScriptでは処理が重かった計算集約的なアプリケーションを、ネイティブアプリケーションに近い速度で実行できます。

本記事では、wasmの基本的な仕組みから実際の活用事例まで分かりやすく解説します。

理解することで、Web開発における新たな可能性を発見でき、今後のビジネスチャンスも見えてくるでしょう。

この記事で分かること

・wasmの技術的特徴とJavaScriptとの根本的違い
・主要企業による標準化の取り組みと対応状況
・Unity・AutoCADなど実際のサービス活用事例

分かりやすく解説しているので、ぜひお読みください。

 wasmとは?Web開発者向け基本解説

wasm(WebAssembly)は、Webブラウザ上で高速実行できるバイナリ形式のコード技術です。

実は、2015年にGoogle・Microsoft・Mozilla・Appleの4社が共同で開発を開始した技術で、2019年にW3C勧告として正式に標準化されました。

従来のJavaScriptとは根本的に異なり、C/C++やRustなどの言語で書かれたプログラムをバイナリ形式にコンパイルして実行します。

wasmの最大の特徴は、ネイティブアプリケーションに近い処理速度を実現できることです。

 wasmの仕組みとバイナリ形式の特徴

wasmは、実在しない仮想的なCPUの機械語として設計されています。

一般的には16進数のバイナリコードとして記述され、ブラウザが直接解釈して実行する仕組みです。

例えば、JavaScriptでは文字列として記述されたコードを実行時に解析する必要がありますが、wasmでは事前にバイナリ形式に変換済みのため解析時間を大幅に短縮できます。

具体的には、wasmファイル(.wasm)として保存され、ブラウザによって検証された後にプロセッサに応じた機械語に変換されて動作します。

この仕組みにより、JavaScriptよりも3~5倍高速な実行速度を実現しています。

興味深いことに、wasmにはテキスト形式(WAT)も存在し、開発者がデバッグ時に内容を確認できるよう設計されています。

 JavaScriptとの違いと実行速度の優位性

wasmとJavaScriptの最大の違いは、実行前の処理方式にあります。

JavaScriptは実行時に文字列を解析してバイナリコードに変換しますが、wasmは既にバイナリ形式のため即座に実行できます。

例えば、同じ計算処理を行う場合、JavaScriptでは構文解析→最適化→実行という段階を経ますが、wasmでは検証→実行のみで完了します。

実際の性能測定では、画像処理や数値計算においてwasmがJavaScriptより大幅に高速な結果を示しています。

ただし、wasmはDOM操作を直接実行できないため、JavaScript経由でWebページの要素を操作する必要があります。

そのため、現実的には計算集約的な処理をwasmで行い、UI制御をJavaScriptで担当する使い分けが一般的です。

 対応ブラウザと標準化の現状

wasmは2024年現在、主要ブラウザの99%以上で対応済みです。

Chrome、Firefox、Safari、Microsoft Edgeはもちろん、iOSやAndroidのモバイルブラウザでも動作します。

2017年11月には「すべての主要なブラウザでの対応完了」が宣言され、前身技術であるasm.jsを上回る普及率を達成しました。

現在はWebAssembly 2.0のドラフト仕様が策定中で、SIMD関数やガベージコレクション対応などの機能拡張が進んでいます。

標準化はWorld Wide Web Consortium(W3C)が管理し、HTML・CSS・JavaScriptに続く「第4のWebブラウザ言語」として位置付けられています。

企業サポートも充実しており、MicrosoftやGoogleなどの大手企業が参加するBytecode Allianceが開発推進を担っています。

 これまでのJavaScriptとの違い

wasmは従来のWeb技術とは根本的に異なるアプローチで高速化を実現しています。

JavaScriptが抱えていた性能面の課題を解決するために生まれた技術で、実際に多くの場面でJavaScriptを上回る処理速度を発揮します。

従来技術との比較を通じて、wasmの革新性を理解することで、Web開発における新たな可能性が見えてきます。

 従来技術asm.jsからの進化プロセス

wasmの直接的な前身は、2013年にMozillaが開発したasm.jsという技術でした。

asm.jsは、JavaScriptのサブセットとして設計され、事前コンパイルによってネイティブコードレベルの高速実行を可能にしました。

例えば、C/C++コードをasm.js形式のJavaScriptに変換することで、ブラウザ上でも高速な計算処理を実現していました。

しかし、asm.jsにはファイルサイズの肥大化と構文解析時間の増大という課題がありました。

wasmはこれらの問題を解決するため、JavaScriptベースではなくバイナリコード形式を採用しました。

興味深いことに、wasmにはasm.jsの利点であるDOM同一プロセス実行とWeb API直接呼び出し機能も継承されています。

 バイナリ形式による高速化の仕組み

wasmの高速化は、バイナリ形式による効率的なコード表現にあります。

JavaScriptでは文字列として記述されたコードを実行時にトークン化→構文解析→バイトコード生成という複数段階を経ます。

一方、wasmでは既にバイナリ形式のため、ブラウザは検証処理のみでプロセッサ固有の機械語に変換できます。

具体的には、wasmはスタックベースの仮想マシンとして動作し、CPUが直接実行するマシンコードに近い中間コードとして設計されています。

この仕組みにより、ロード時間の短縮とコードサイズの削減を同時に実現しています。

実測値では、同じ処理をJavaScriptで実行する場合と比べて、wasmは起動時間を約50%短縮できることが確認されています。

 セキュリティとサンドボックス環境

wasmは、高速性と同時にセキュリティ面でも優れた設計を採用しています。

デフォルトで外部から完全に隔離されたサンドボックス環境で実行され、システムリソースへの直接アクセスは一切できません。

例えば、ファイルシステムやネットワーク機能にアクセスする場合、必ずJavaScript経由でブラウザのAPIを使用する必要があります。

メモリ管理においても、wasmは独自の線形メモリ領域を持ち、JavaScriptのヒープとは完全に分離されています。

また、wasmでは構造化プログラミングが強制され、直接的なJUMP命令による制御フロー破綻を防止しています。

セキュリティ専門機関の評価では、wasmのサンドボックス機能は従来のネイティブAPI実装よりも高い安全性レベルを提供すると結論付けられています。

 wasmが注目される理由

wasmが急速に普及している背景には、Web開発における従来の制約を根本的に解決する革新性があります。

単なる高速化技術ではなく、Webプラットフォーム全体の可能性を拡張する基盤技術として評価されています。

近年、インフラ技術としても注目を集めており、ブラウザ以外の環境での活用も活発化しています。

 ネイティブレベルの処理速度を実現

wasm最大の魅力は、Webブラウザ上でネイティブアプリケーションに匹敵する処理速度を実現できることです。

実は、wasmで実行されるコードは、ネイティブ実行と比較して2~2.5倍程度の速度低下に留まります。

従来のJavaScriptでは同じ処理が3~5倍遅くなることと比較すると、大幅な性能向上を実現しています。

例えば、画像処理アプリケーションでは、wasmを使用することで25倍もの高速化を達成した事例も報告されています。

この性能向上により、これまでデスクトップアプリケーションでしか実現できなかった高度な処理がWebブラウザで可能になりました。

計算集約的な処理において、wasmはJavaScriptの制約を完全に解消する解決策として機能しています。

 複数プログラミング言語からのコンパイル対応

wasmは、多様なプログラミング言語からコンパイルできる汎用性を持っています。

現在対応している主要言語には、C/C++、Rust、Go、Python、TypeScript、C#、Kotlinなど10種類以上があります。

例えば、既存のC++で開発されたライブラリをwasmにコンパイルすることで、そのままWebアプリケーションで活用できます。

特にRustからwasmへのコンパイル環境は充実しており、wasm-packなどの専用ツールが提供されています。

この言語中立性により、開発者は慣れ親しんだ言語でWebアプリケーション開発を行えます。

興味深いことに、各言語の特性(メモリ安全性、並行処理能力など)を活かしたままwasmとして実行できるため、従来のJavaScript開発では困難だった高度な機能実装が可能です。

 Webアプリケーションの新たな可能性

wasmの普及により、これまでWebでは実現困難だったアプリケーション分野が開拓されています。

代表的な分野として、リアルタイム画像・動画処理、3Dゲーム、CADソフトウェア、データベース処理などが挙げられます。

例えば、AutoCADのような35年以上の開発歴を持つ大規模CADソフトウェアが、wasmにより完全にブラウザ上で動作するようになりました。

また、DuckDBのようなデータベースエンジンもwasm対応により、ブラウザ内で大規模データの高速分析が可能になっています。

サーバーレス環境での活用も注目されており、AWS Lambdaでのwasm実行やコンテナ化技術との組み合わせも実用段階に入っています。

これらの進展により、wasmはWeb開発の枠を超えて、次世代のアプリケーション実行環境として位置付けられるようになりました。

 wasmを開発・提供している主要企業

wasmの開発と普及には、世界的な大手テクノロジー企業が積極的に関与しています。

単一企業の独自技術ではなく、業界横断的な標準化プロジェクトとして推進されているのが特徴です。

現在では、開発ツールから実行環境まで、包括的なエコシステムが各企業により整備されています。

 Google・Microsoft・Mozilla・Appleの標準化推進

wasmの標準化は、2015年にGoogle・Microsoft・Mozilla・Appleの4大ブラウザベンダーが共同で開始しました。

実は、この4社による協力体制は極めて異例で、通常は競合関係にある企業が技術標準化で連携した画期的な事例です。

各社の役割分担として、GoogleはV8エンジンでの実装、MozillaはFirefoxでの対応、MicrosoftはEdgeブラウザでの統合、Appleはサファリでの実装を担当しました。

2017年には全ての主要ブラウザでの対応が完了し、前例のない短期間での標準化を実現しています。

現在もW3C(World Wide Web Consortium)の管理下で仕様策定が継続されており、4社による協力体制は維持されています。

特筆すべきは、モバイルブラウザを含む99%以上のブラウザでwasmが利用可能となっている普及率の高さです。

 Rust・C/C++開発環境を提供する企業

wasmへの言語対応では、Mozilla(Rust開発元)とLLVMプロジェクトが中心的役割を果たしています。

Rustからwasmへのコンパイル環境は特に充実しており、wasm-packやwasm-bindgenなどの専用ツールが提供されています。

例えば、wasm-packを使用することで、Rustプロジェクトをnpmパッケージとして直接公開できる仕組みが整っています。

C/C++環境では、Emscriptenプロジェクトが主要な開発基盤を提供し、既存のネイティブコードのwasm移植を支援しています。

LLVMコンパイラ基盤の進化により、現在では10種類以上のプログラミング言語からwasmへのコンパイルが可能になりました。

Intel、ARM、Ciscoなどのハードウェア企業も、wasm最適化に向けたコンパイラ技術開発に参画しています。

 WebAssembly対応フレームワーク提供企業

wasmを活用したアプリケーション開発では、専門的なフレームワーク提供企業が重要な役割を担っています。

Unity Technologies社は、世界最大級のゲームエンジンUnityでのwasm対応を実現し、ブラウザゲーム開発の標準基盤を提供しています。

実は、Unityは以前asm.jsを使用していましたが、処理速度・メモリ効率・デバッグ性能の観点からwasmに完全移行しました。

Microsoft社は.NET Blazor WebAssemblyにより、C#でのwasmアプリケーション開発環境を提供しています。

新興企業では、Figmaがwasmを活用した高性能Webアプリケーションの代表例として注目されています。

Bytecode Allianceという非営利団体には、Microsoft、Google、Amazon、Intel、Ciscoなど名だたる企業が参加し、wasmエコシステム全体の発展を支えています。

 wasmの活用事例

wasmは理論的な技術にとどまらず、実際に多くの企業や開発者によって実用的なアプリケーションで活用されています。

従来はネイティブアプリケーションでしか実現できなかった高度な処理が、Webブラウザ上で実行可能になった革新的な事例が数多く存在します。

これらの事例を通じて、wasmの実用性と将来的な可能性を具体的に理解できます。

 Unity・AutoCADなどの大型アプリケーション移植

wasm最大の成功事例として、大規模なネイティブアプリケーションのWeb移植が挙げられます。

AutodeskのAutoCADは、35年以上にわたりC++で開発された数ギガバイト規模のCADソフトウェアをwasmにより完全にブラウザ対応しました。

従来、CADソフトウェアの利用には大容量アプリケーションのインストールと高性能マシンが必要でしたが、wasm版では即座にブラウザ上で利用可能です。

Unity Technologies社も、世界最大級のゲームエンジンUnityをwasm対応させ、ブラウザ上でリッチな3Dゲーム実行を実現しています。

実は、Unityは当初asm.jsを使用していましたが、処理速度・メモリ効率・コードサイズ・デバッグ性能すべての面でwasmが優秀だったため完全移行しました。

これらの事例により、従来「不可能」とされていた大規模アプリケーションのWeb化が現実的な選択肢となりました。

 DuckDB・画像処理などの高速データ処理

wasmは、データ処理分野でも革新的な成果を上げています。

DuckDBは、分析用データベースエンジンをwasm対応させ、ブラウザ内で大規模データの高速クエリ処理を実現しています。

具体的には、150万行規模のデータセットに対するSQL分析をクライアントサイドで実行でき、サーバー通信なしでリアルタイム分析が可能です。

画像処理分野では、wasmとRustを組み合わせることで、TypeScript実装と比較して25倍もの高速化を達成した事例が報告されています。

例えば、Local Binary Pattern(LBP)画像変換処理において、1200万画素の画像を数秒で処理できる性能を実現しています。

興味深いことに、wasm版DuckDBはCloudflare R2などのオンラインストレージと組み合わせることで、サーバーレスなビッグデータ分析基盤としても活用されています。

 ゲーム・3Dグラフィックス分野での実用化

wasmは、高度なグラフィックス処理が求められるゲーム分野で特に威力を発揮しています。

Unityで開発されたゲームの多くがwasm対応により、プラグインインストール不要でブラウザ上での実行を実現しています。

また、Google Earthのような大規模3D地図アプリケーションもwasm技術により、スムーズなブラウザ実行が可能になりました。

WebGLとwasmの組み合わせにより、GPU処理とCPU集約的処理の両方を最適化した高性能3Dアプリケーションが開発されています。

実際の性能測定では、wasmを使用した3Dレンダリング処理がJavaScript実装と比較して3~5倍高速な結果を示しています。

ブラウザゲーム市場では、wasm対応により従来のFlashやデスクトップゲームに匹敵する品質のゲーム体験が提供されるようになり、市場拡大の要因となっています。

 まとめ【wasmはWeb開発の新標準技術】

wasm(WebAssembly)は、Webブラウザ上でネイティブレベルの高速処理を実現する革新的な技術です。

JavaScriptの性能制約を根本的に解決し、C/C++やRustなど多様な言語からコンパイル可能な汎用性を備えています。

Google・Microsoft・Mozilla・Appleによる業界横断的な標準化により、現在99%以上のブラウザで利用できる成熟した技術となりました。

Unity・AutoCAD・DuckDBなどの実用事例が示すように、従来デスクトップアプリケーションでしか実現できなかった高度な処理がWebで可能になっています。

バイナリ形式による高速実行、セキュアなサンドボックス環境、言語中立性という特徴により、wasmはWeb開発における新たな選択肢として確立されています。

今後もWebAssembly 2.0の仕様策定やブラウザ外環境での活用拡大が進むことで、wasmはWeb技術の進化を牽引する重要な基盤技術として発展していくでしょう。


参照URL:

  • https://webassembly.org/
  • https://developer.mozilla.org/ja/docs/WebAssembly
  • https://ja.wikipedia.org/wiki/WebAssembly
  • https://duckdb.org/docs/stable/clients/wasm/overview.html
  • https://www.rust-lang.org/ja/what/wasm