「NPSって最近よく聞くけれど、従来の顧客満足度調査と何が違うの?」
「なぜ多くの企業がNPSを重要視するようになったの?」
「具体的にどうやって計算して活用すればいいの?」
このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか?
NPSとは、Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)の略称で、顧客が企業や商品・サービスを他者に推奨する度合いを数値化した指標です。
実は従来の顧客満足度調査で「満足」と答えた顧客の約80%が、その後離れていくという調査結果があります。
本記事ではNPSの基本的な仕組みから計算方法、従来の顧客満足度との違い、主要企業の活用事例まで分かりやすく解説します。
理解することで顧客の真のロイヤルティを把握でき、今後のビジネス戦略立案における重要な判断材料を得ることができます。
この記事で分かること
・NPSの基本的な仕組みと計算方法
・顧客満足度調査との本質的な違い
・実際の企業における活用事例と成果
分かりやすく解説しているので、ぜひお読みください。
目次
NPSとは?顧客推奨度を測る革新的指標
NPSは2003年にアメリカで誕生した比較的新しい概念です。
実は欧米の売上上位企業(フォーチュン1000)の3分の2以上が既に活用しており、アップルやグーグルなど世界的企業がサービス改善の基準として採用しています。
日本でも楽天グループや富士通などの大手企業が経営指標の一つとして導入し、顧客との関係性向上に取り組んでいます。
NPSの基本的な仕組みと測定方法
NPSの測定方法は驚くほどシンプルです。
「この商品・サービスを親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか?」という1つの質問に0~10点で回答してもらうだけで測定できます。
回答者を9~10点の「推奨者」、7~8点の「中立者」、0~6点の「批判者」の3つに分類し、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値がNPSスコアとなります。
例えば推奨者が20%、批判者が30%の場合、NPSは-10ポイントという計算になります。
マイナス値になることも珍しくなく、NPS考案者のライクヘルド氏が自社を評価した際も-35ポイントという結果でした。
従来の満足度調査では見えない顧客の本音
一般的には満足度が高ければ顧客は継続利用すると考えられがちです。
しかし実際には、離反した顧客の約80%が直前の顧客満足度調査で「満足している」と回答していたという衝撃的なデータがあります。
NPSが注目される理由は、単なる満足度ではなく「他者への推奨意向」を聞くことで、顧客の真の気持ちを測れる点にあります。
他人に勧めるという行為は、自分の評判をかけた責任ある判断のため、表面的な満足度よりも本音に近い回答が得られます。
健康食品通販大手の調査では、NPSが高いサイトほど一年以上継続利用している顧客の割合が高いことが実証されています。
アメリカ発祥から世界的指標への急速な普及
NPSはベイン・アンド・カンパニー社のフレドリック・F・ライクヘルド氏が2003年にハーバード・ビジネス・レビューで発表した指標です。
GEやアップル、レゴなど様々な企業がその有効性を証明したことで、急速に世界中に広がりました。
現在では30カ国以上で活用されており、業界を問わず顧客ロイヤルティ測定の国際標準となっています。
日本でも2018年時点で10.1%の企業が導入しており、2022年現在ではより多くの企業が採用していることが予測されています。
特に金融業界では「顧客本位の業務運営」のKPIの一つとしてNPSが積極的に活用されています。
これまでの顧客満足度調査との違い
NPSと顧客満足度の最大の違いは、業績との相関性にあります。
従来の顧客満足度調査は現時点での満足度を測るのに対し、NPSは将来の行動を予測できる指標として機能します。
この根本的な違いが、多くの企業がNPSを経営指標として採用する理由となっています。
業績との相関性が根本的に異なる理由
顧客満足度とNPSでは、企業収益への影響度が大きく異なります。
NPSを考案したベイン・アンド・カンパニーの調査によると、多くの業界においてNPSが最も高い企業は、競合他社と比べて2倍の成長率を上げています。
一方で顧客満足度は、顧客が「満足」と答えやすい傾向があるため、調査結果が良くても売上や業績が下がることがあり、業績との相関関係は低いとされています。
この違いが生まれる理由は、満足度という言葉が包含する範囲が非常に幅広く曖昧だからです。
例えば「普通のサービスだったが、特に不満はない」という状況でも「満足」と回答する顧客は多く存在します。
しかし同じ顧客が他人にそのサービスを積極的に勧めるかといえば、答えは明らかに「No」です。
NPSは「推奨する」という具体的な行動を想定した質問のため、より実態に即した回答が得られます。
将来の行動予測ができる推奨度という概念
従来の顧客満足度調査では「過去の購買や経験に対する個人としての満足度」を質問します。
対してNPSでは「この商品・サービスを友人や同僚にすすめる可能性」という将来の行動を想定した質問を行います。
この違いにより、NPSは顧客の将来的な購買行動やリピート率をより正確に予測できるとされています。
実際に、推奨者のライフタイムバリューは批判者の約2.4倍あると言われており、NPSの高い顧客ほど企業に長期的な利益をもたらします。
また「他者への推奨」は自分の評判をかけた行為のため、表面的な回答ではなく顧客の真の評価を引き出せます。
SNSの普及により個人が気軽にサービスへの評価や不満を表明できるようになった現代では、リアルな顧客ロイヤルティを測れるNPSの重要性がさらに高まっています。
統一された測定方法による企業間比較
顧客満足度調査には世界共通の測定方法が存在しないため、企業や業界間での比較が困難でした。
一方NPSは、ベイン・アンド・カンパニーによって世界共通の標準的な測定方法が整備されています。
異なる業界や企業間であっても同じ測定方法が用いられるため、非常に高い一貫性と比較性を持つことが特徴です。
例えばNTTコムオンラインが実施しているNPSベンチマーク調査では、銀行業界平均が-40.2ポイント、生命保険業界平均が-47.4ポイントといった具体的な業界基準値が公表されています。
これにより自社のNPSスコアを業界平均や競合他社と客観的に比較でき、自社のポジショニングを正確に把握できます。
計算方法も非常にシンプルなため、手法の導入が容易で、経営陣から現場スタッフまで誰もが理解しやすい指標となっています。
NPSが注目される理由
NPSが世界的に注目される背景には、デジタル時代における顧客行動の変化があります。
従来のマーケティング手法では測りきれない顧客の真の声を可視化できることが、多くの企業に評価されています。
特に口コミやSNSの影響力が強まった現代において、NPSは企業にとって不可欠な指標となっています。
収益性との強い相関で経営指標に最適
NPSが注目される最大の理由は、企業の収益性との強い相関関係です。
NPSを考案したベイン・アンド・カンパニーの調査では、多くの業界においてNPSでトップを走る企業は、競合他社の2倍の成長率を上げているという結果が発表されています。
この相関性の高さから、NPSは単なる満足度指標ではなく、将来の業績を予測する経営指標として活用されています。
実際に動画配信サービス業界では、NPSが大きく向上した企業において売上も同時に上昇しており、NPSと企業の業績指標の連動性が実証されています。
金融業界では「顧客本位の業務運営」のKPIの一つとしてNPSが積極的に導入されており、代理店型自動車保険業界では導入率が100%に達しています。
銀行業界でも92.3%という高い導入率を誇り、NPSが経営判断の重要な材料として定着していることが分かります。
推奨者の割合が高い企業ほど、リピート購入や口コミによる新規顧客獲得が期待でき、安定的な収益基盤を構築できます。
シンプルな計算方法で誰でも理解可能
NPSの大きな特徴は、その計算方法の分かりやすさにあります。
従来の顧客満足度調査では50問近い質問を設定するケースもあり、回答者が途中で離脱してしまうという課題がありました。
NPSでは「推奨度」を問う1つの質問だけで顧客ロイヤルティを測定でき、回答者の負担を大幅に軽減できます。
計算式も「推奨者の割合-批判者の割合」という非常にシンプルなもので、統計学の知識がなくても理解できます。
例えば回答者100人のうち推奨者が20人、批判者が30人の場合、NPSは「20%-30%=-10ポイント」となります。
この単純明快さにより、経営陣から現場スタッフまで組織全体でNPSの意味を共有でき、改善活動に一体となって取り組めます。
また調査実施から結果分析まで短時間で完了するため、迅速な意思決定と施策実行が可能になります。
口コミ時代に適した顧客ロイヤルティ測定
SNSやレビューサイトの普及により、顧客の声が企業経営に与える影響は飛躍的に拡大しています。
従来の顧客満足度調査では捉えきれない「顧客が実際に他者に推奨するかどうか」という行動予測が、NPSでは可能になります。
実際にNPSが高い顧客は、SNSで好意的なレビューを投稿したり、友人や知人に製品やサービスを推奨したりする傾向が強いことが分かっています。
逆にNPSの低い顧客は、ネガティブな口コミを発信し、企業のブランドイメージに悪影響を与える可能性があります。
現代の消費者は購買前にインターネットで評判を調べることが当たり前になっており、一人の顧客の発信が数百人、数千人の購買判断に影響を与えます。
このような環境において、NPSは顧客の真の推奨意向を測る重要な先行指標として機能し、ブランドリスクの早期発見にも役立ちます。
マーケティング投資の効果測定においても、NPSは従来指標では見えなかった顧客の感情的な結びつきを可視化できる優れたツールです。
NPSを開発・提供している主要企業
NPSの普及には、理論開発から実用化まで複数の専門企業が重要な役割を果たしています。
アメリカ発の概念でありながら、日本市場に適したNPSサービスを提供する国内企業も数多く登場しています。
これらの企業の技術革新により、NPSは単なる調査手法から包括的な顧客体験改善ツールへと進化を続けています。
ベイン・アンド・カンパニーの研究開発
NPSの生みの親であるベイン・アンド・カンパニーは、1973年設立のアメリカの戦略コンサルティング会社です。
同社のフレドリック・F・ライクヘルド氏が2003年にハーバード・ビジネス・レビューでNPSの概念を発表し、世界的な注目を集めました。
実はNPSが誕生する前、ライクヘルド氏は「収益性と連動するロイヤルティ計測のための指標を探す」という発想から長年研究を続けていました。
様々な質問形式を試行錯誤した結果、「推奨意向を質問し、顧客を3つのセグメントに分ける手法」が最も収益性と相関することを発見したのです。
ベイン・アンド・カンパニーはNPSの理論的基盤を提供するだけでなく、GE、アップル、アメリカンエクスプレスなど世界的企業への導入支援も手がけています。
現在もNPSに関する研究を継続しており、業界別ベンチマーク調査やNPS向上のベストプラクティスを定期的に公表しています。
同社の調査では、NPSでトップを走る企業が競合他社の2倍の成長率を達成するという重要な知見を提供し、NPSの有効性を実証し続けています。
NTTコムオンラインの日本市場展開
NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション株式会社は、日本におけるNPS普及のパイオニア企業です。
2016年から業界別NPSベンチマーク調査を継続実施し、日本市場で基準となる値を提供している点が特徴的です。
NPS認定資格者によるコンサルティングサービスから、顧客の声をリアルタイムに可視化するクラウドサービス「NPX Pro」まで、包括的なNPSソリューションを展開しています。
同社が実施しているNPSベンチマーク調査では、生命保険、銀行、自動車など18業界を対象に毎年継続的に調査を行っています。
調査結果は無料ダウンロードレポートとして公開されており、各業界のNPS平均値や上位企業のランキングを確認できます。
例えば2022年の調査では、自動車業界でレクサスが17.4ポイントで1位、生命保険業界でソニー生命が-29.5ポイントで1位という結果が発表されています。
NPSを国や対象業界によりスコアの傾向が異なる指標であることを踏まえ、日本市場に特化した基準値の提供に注力している点が評価されています。
エモーションテックの分析技術革新
株式会社エモーションテックは、NPSをはじめとした顧客感情データの調査・分析に特化したクラウドサービスを提供しています。
同社の強みは、単純なNPSスコアの計算にとどまらず、相関分析や重回帰分析など高度な統計手法を活用した分析機能です。
従来は専門知識が必要だった複雑な分析を、誰でも簡単に実行できるツールとして提供している点が革新的です。
NPS調査では質問設計から結果分析、改善施策の立案まで一連の作業をワンストップで支援し、企業のNPS活用を大幅に効率化しています。
業界別の顧客ロイヤルティ調査も実施しており、カフェ、コンビニ、ファストフード、家具販売、家電量販店など幅広い業界のNPSデータを蓄積しています。
例えばコンビニ業界ではセブンイレブンが1位、家電量販店業界ではヨドバシカメラが1位という調査結果を発表し、業界動向の把握に貢献しています。
NPSの効果的な活用方法に関するセミナーも定期開催しており、NPS導入を検討する企業への教育支援も積極的に行っています。
NPSの活用事例
NPSを実際に経営指標として導入した企業では、顧客満足度向上と業績成長の両方を実現する成果が報告されています。
日本の代表的企業におけるNPS活用事例を見ることで、具体的な導入方法と期待できる効果を理解できます。
これらの成功事例は、NPSが単なる調査手法ではなく、企業変革の原動力となることを証明しています。
楽天グループの全社的NPS導入戦略
楽天グループはNPSを成長戦略の重要なKPIとして位置付け、全社的な取り組みを展開している代表例です。
NPS導入のきっかけは、2014年に楽天市場の新規利用者数の成長が鈍化したことでした。
分析の結果、顧客との関係性にさらなる改善余地があると判明し、NPSを新たな重要KPIの一つとして採用したのです。
楽天では顧客を基点とした事業戦略を推進する「顧客戦略部」を設置し、NPS推進室を新設して各事業部での顧客理解促進研修を実施しました。
注目すべきは、事業部門だけでなく開発部門でもNPSを指標として採用し、全ての事業で顧客目線での開発を実施している点です。
NPS導入以前の短期的な売上重視から、顧客目線に立った施策へと方針転換を行い、メールマガジンの改善、検索機能の改善、送料無料ラインの導入など様々な改善を実施しています。
成果が出ている取り組みは他のサービスにも横展開され、2022年第4四半期のスコアでは競合他社と比較して7.9ポイント差で上回る結果を達成しています。
2023年第1四半期決算では「楽天エコシステム」のNPSが競合の経済圏よりも高いスコアを得ていることが公開されました。
富士通のグローバル統一NPS運用
富士通株式会社はNPSを非財務指標として位置付け、財務指標との相関を検証しながら経営判断に活かしている先進企業です。
同社の特徴は、2020年から30カ国共通の質問でアンケート調査を実施し、世界中の顧客の声を横断して分析・共有していることです。
従来は各国で個別に行っていた調査をグローバルで統合することで、グループ全体の経営判断により正確なデータを提供できるようになりました。
富士通ではNPSを含む「VOICEプログラム」を展開し、お客様や従業員の声を新たな経営指標として活用しています。
このプログラムでは顧客のNPSスコアだけでなく、従業員のエンゲージメント指標であるeNPSも同時に測定し、両方の相関関係を分析しています。
グローバル統一基準によるNPS測定により、地域別・事業別の課題を客観的に把握でき、リソース配分の最適化に活用しています。
30カ国という大規模なグローバル調査を継続実施することで、文化的背景の違いを考慮したNPS分析手法も確立しており、他の多国籍企業のベンチマークとなっています。
業界トップ企業の具体的成果実績
NPSベンチマーク調査で上位にランクインする企業では、共通して具体的な成果が報告されています。
自動車業界1位のレクサスでは、NPSスコア17.4ポイントを達成し、「運転のしやすさ」や「運転する楽しさ」が特に評価されています。
生命保険業界1位のソニー生命はNPSスコア-29.5ポイントで、「加入後のアフターフォローの手厚さ」や「自分に合った保険サービスを提案してくれる」点が顧客から高く評価されました。
ある美容医療クリニチェーンでは、NPS導入後にメールでアンケートを配信し、結果を自動集計するシステムを構築しました。
各院がNPSスコアを定期的に確認できる体制を整備し、成績優秀院の取り組みを横展開したり表彰制度を設けたりしています。
施術別・医師別のNPS値を分析することで、ロイヤルティの高い治療を特定し、新事業展開に活かすことも可能になりました。
某野球球団では試合結果に関係なく球場体験の向上を目指してNPSを導入し、NPSスコアとチケット売上との相関性を発見しています。
チケット購入者向けの調査とファンクラブ会員向けの調査を並行実施し、短期・長期の両軸で顧客体験改善に取り組む体制を構築しました。
まとめ【NPSは企業成長の新たな羅針盤】
NPSは従来の顧客満足度調査では測りきれない顧客の真の推奨意向を可視化し、企業の将来性を予測できる革新的な指標です。
2003年のアメリカ発祥から20年余りで世界的な標準指標となり、日本でも楽天グループや富士通などの大手企業が経営判断の重要な材料として活用しています。
「推奨者の割合-批判者の割合」というシンプルな計算式でありながら、企業の収益性との強い相関を持つことがNPSの最大の特徴といえます。
デジタル化が進む現代において、顧客の声が企業経営に与える影響はますます拡大しており、NPSは口コミ時代に適した顧客ロイヤルティ測定手法として今後もその重要性が高まると考えられます。