「ダウンラウンドって具体的にどういう意味なの?」「なぜ投資家や企業が避けたがるのか分からない」「実際にダウンラウンドが起きるとどんな影響があるのだろう」
このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか?
ダウンラウンドとは、スタートアップ企業が前回の資金調達時よりも低い企業評価額で新たな資金調達を行うことを指します。
本記事では、ダウンラウンドの基本的な仕組みから、発生する原因、実際の企業事例まで分かりやすく解説します。
理解することで、投資市場における企業評価の変動メカニズムを把握でき、今後の投資判断や事業戦略にも活用できるでしょう。
この記事で分かること
・ダウンラウンドの基本概念と通常の資金調達との違い
・ダウンラウンドが発生する市場環境や企業要因
・実際のダウンラウンド事例とその影響分析
分かりやすく解説しているので、ぜひお読みください。
目次
ダウンラウンドとは?投資家が知るべき基本的な仕組み
ダウンラウンドは投資・資金調達分野における重要な概念です。
投資家や経営者にとって避けたい状況とされていますが、その本質的な意味を正しく理解することが重要です。
ダウンラウンドの定義と特徴
ダウンラウンドとは、スタートアップ企業が前回の資金調達時よりも低い企業評価額で株式を発行し、新たな資金調達を行うことです。
例えば、シリーズAで企業評価額10億円で調達した企業が、次のシリーズBで8億円の評価額で調達する場合がダウンラウンドに該当します。
実は、ダウンラウンドは決して珍しい現象ではありません。
市場環境の変化や企業の成長ペースの調整により、多くの企業が経験する可能性があります。
重要なのは、ダウンラウンド自体が企業の失敗を意味するわけではなく、適切な対処により企業価値を回復できる点です。
投資ラウンドにおけるダウンラウンドの位置づけ
投資ラウンドは通常、シード、シリーズA、シリーズB、シリーズCと段階的に企業評価額を上げながら進行します。
ダウンラウンドは、この上昇トレンドが一時的に逆転する現象として位置づけられます。
一般的に、企業の成長段階に応じて評価額は右肩上がりで推移することが期待されています。
しかし、外部環境の変化や事業計画の見直しにより、前回よりも低い評価額での調達が必要になる場合があります。
投資ラウンドの中でも、特にシリーズB以降のレイターステージでダウンラウンドが発生しやすい傾向にあります。
ダウンラウンドが注目される背景
2022年以降、日本国内でもダウンラウンドへの注目が急激に高まりました。
コロナ禍による投資バブルの反動で、多くのスタートアップが高すぎる評価額で調達していたことが明らかになったためです。
具体的には、2020年から2021年にかけて過度に高いバリュエーションで調達した企業が、その後のIPO時に公募価格でダウンラウンドを余儀なくされる事例が続出しました。
市場関係者によると、2023年上半期にはシリーズB以降でのダウンラウンドが前年より大幅に増加しています。
この現象は、投資市場の健全化プロセスの一環として捉えられており、今後の投資戦略を考える上で重要な指標となっています。
これまでの通常の資金調達とのダウンラウンドの違い
ダウンラウンドを正しく理解するには、通常の資金調達パターンとの違いを明確に把握することが重要です。
資金調達における企業評価額の変動パターンによって、投資家や既存株主への影響は大きく異なります。
アップラウンドとダウンラウンドの根本的な違い
アップラウンドは前回の資金調達時よりも高い企業評価額で行う資金調達です。
ダウンラウンドとは正反対の概念で、既存株主にとって最も理想的な調達パターンとされています。
例えば、前回5億円の評価額で調達した企業が、次回8億円で調達する場合がアップラウンドです。
この場合、既存株主の持株価値は自動的に上昇し、投資収益の向上が期待できます。
一方、ダウンラウンドでは既存株主の持株価値が希薄化するリスクが発生します。
新規投資家が既存株主よりも有利な条件で株式を取得できるため、公平性の観点から「希薄化防止条項」が設定されることが一般的です。
フラットラウンドとダウンラウンドの比較
フラットラウンドは前回と同じ企業評価額で行う資金調達のことです。
ダウンラウンドほどではありませんが、既存株主にとってはやや不満足な結果となる場合が多いとされています。
フラットラウンドの場合、企業価値の成長が停滞していることを示唆する可能性があります。
しかし、市況が悪化している環境下では、評価額を維持できただけでも一定の評価を受けることがあります。
ダウンラウンドの場合、企業価値の明確な下落を意味するため、より深刻な影響を及ぼします。
投資家心理や従業員のモチベーションへの影響も、フラットラウンドと比較して格段に大きくなる傾向があります。
ダウンラウンド発生時の株価変動メカニズム
ダウンラウンドでは、新規発行株式の価格が前回の調達価格を下回ります。
この価格差により、既存株主の持株比率が予想以上に希薄化される現象が発生します。
具体的なシミュレーションで説明すると、前回100円で調達した株式が50円で発行される場合を考えてみましょう。
同じ資金調達額でも、発行株式数が倍増するため、既存株主の持株比率は大幅に低下します。
この希薄化を防ぐため、「ラチェット方式」や「加重平均法」といった希薄化防止条項が発動されることが多いです。
ダウンラウンドの影響を受ける既存株主の持株数が自動的に調整され、損失の軽減が図られる仕組みとなっています。
ダウンラウンドが投資市場で注目される理由
近年の投資市場においてダウンラウンドへの関心が急速に高まっています。
その背景には、グローバル経済環境の変化とスタートアップ投資の構造的な転換点があります。
2022年以降のダウンラウンド増加の市況的背景
2022年を境にダウンラウンドの発生頻度が大幅に増加しました。
最大の要因は、アメリカを中心とする世界各国の中央銀行による利上げ政策です。
利上げの実行により、市場への投資マネーが減少し、テック株を中心に株価が大幅に下落しました。
この影響は未上場スタートアップ市場にも波及し、企業評価額の見直しが広範囲で発生したのです。
特に2020年から2021年のコロナバブル期に高いバリュエーションで調達した企業が、ダウンラウンドの対象となりました。
市場関係者の間では、この調整プロセスを「投資バブルの正常化」として捉える見方が主流となっています。
投資環境の変化がダウンラウンドに与える影響
金融危機や経済不況などの外部環境の変化がダウンラウンド発生の主要因となっています。
投資家のリスク許容度が低下し、より厳格な投資基準が適用されるようになりました。
従来であれば成長性を重視して高いバリュエーションが付けられていた企業も、収益性や持続可能性がより厳しく評価されるようになっています。
ベンチャーキャピタルの資金調達環境も悪化しており、2022年第4四半期の調達額は10年間で最低水準まで落ち込みました。
この結果、投資家側もダウンラウンドを受け入れざるを得ない状況が増加しています。
エネルギー価格の高騰やインフレ懸念なども、投資環境の悪化に拍車をかけている要因として挙げられます。
スタートアップ投資におけるダウンラウンドの意味
ダウンラウンドは、スタートアップ投資の健全化プロセスとして重要な役割を果たしています。
過度に楽観的だった企業評価が適正水準に修正される機会として機能しているのです。
実際に、Facebook(現Meta)のようにダウンラウンドを経験しても、その後急成長を実現した企業の事例も存在します。
投資家にとっては、企業の真の価値を見極める重要な判断材料となっています。
ダウンラウンドの発生により、経営陣の事業運営能力や市場適応力がより厳しく問われるようになりました。
結果として、本当に優秀な経営チームと事業モデルを持つ企業が選別される「優勝劣敗」の構造が鮮明になっています。
ダウンラウンドを扱う主要な投資関連企業
ダウンラウンドに関わる投資関連企業は、それぞれ異なる立場から対応策を講じています。
各企業の対応方針を理解することで、ダウンラウンドの全体像をより深く把握できます。
ベンチャーキャピタルのダウンラウンド対応方針
ベンチャーキャピタル各社はダウンラウンドに対して慎重かつ戦略的なアプローチを取っています。
多くのVCが「Pay-to-Play条項」を活用し、既存投資家にも追加出資を求める手法を採用しています。
これはダウンラウンド発生時に、既存投資家が継続的な支援意思を示すことを新規投資家に証明する仕組みです。
Coral Capitalなどの国内有力VCは、ダウンラウンド回避のための5つの手法を提案しています。
具体的には、デットファイナンスの活用、コンバーティブルエクイティの利用、事業売却の検討などが挙げられます。
日本政策金融公庫や商工中金、みずほ銀行などの金融機関も、スタートアップ向けデット商品を拡充し、ダウンラウンド回避策の選択肢を広げています。
投資銀行におけるダウンラウンド事例の分析
投資銀行はダウンラウンドを「ディスカウント増資」の概念と関連付けて分析しています。
REIT市場では一般的な現象として、NAV(純資産価値)を下回る価格での新規発行が頻繁に発生しています。
この経験を活かし、スタートアップのダウンラウンドについても冷静な分析を行っている投資銀行が多いです。
既存株主への影響を最小化するため、希薄化防止条項の設計に関するアドバイザリー業務を提供しています。
特に上場準備段階の企業に対しては、ダウンラウンドIPOを回避するための企業価値向上策を助言しています。
投資銀行の視点では、ダウンラウンドは一時的な調整局面として捉えられており、長期的な企業価値創造への影響は限定的とする見方が主流です。
上場支援企業のダウンラウンドIPO対策
IPO支援を行う企業はダウンラウンドIPOへの対策を重要課題として位置づけています。
KPMGの調査によると、2022年には外部投資家を有する51社のうち19社でダウンラウンドIPOが確認されました。
この中には8割を超える大幅な下落となった事例も含まれており、対策の重要性が浮き彫りになっています。
上場支援企業は、ダウンラウンドIPO回避のため事前の企業価値評価の適正化を重視しています。
過度に高いプレIPO評価額を避け、上場時の公募価格との整合性を図る戦略を提案しています。
また、ダウンラウンドIPOとなった場合でも、投資家への適切な説明責任を果たすためのIR戦略の構築支援も行っています。
ダウンラウンドの具体的な発生事例と影響
ダウンラウンドの実態を理解するには、具体的な企業事例を通じてその影響を分析することが重要です。
国内外の事例から、ダウンラウンドが企業運営に与える実際の影響を検証していきます。
日本企業のダウンラウンドIPO事例
2022年から2024年にかけて、日本国内でダウンラウンドIPOが相次ぎました。
東証グロース市場にIPOした企業のうち、約半数にあたる企業がダウンラウンドIPOを実施したという調査結果があります。
代表的な事例として、note株式会社は2022年12月の上場時に大幅なダウンラウンドを経験しました。
同社は上場前の資金調達時の評価額から大幅に下回る公募価格での上場となりましたが、初値は公募価格を上回る結果となっています。
2021年12月以降のテックIPO57社を対象とした調査では、32社(56%)がダウンラウンドとなったことが明らかになりています。
特に2020年から2021年のコロナバブル期に高いバリュエーションで調達した企業の多くが、この影響を受けました。
海外大手企業のダウンラウンド事例
海外では、後払い決済大手のスウェーデン・クラーナ社が代表的なダウンラウンド事例として知られています。
同社は2022年7月の資金調達で企業価値を67億ドルに設定しましたが、これは2021年6月の456億ドルから約7分の1の大幅な下落でした。
ソフトバンクビジョンファンドの投資先企業も、市況悪化により多数のダウンラウンドを経験しました。
特にユニコーン企業(評価額10億ドル超の未上場企業)の評価額見直しが広範囲で発生したのが特徴です。
一方で、Facebook(現Meta)は未上場時にシリーズDで小幅なダウンラウンドを経験しましたが、その後の急成長により投資家に大きな利益をもたらしています。
この事例はダウンラウンドが必ずしも企業の将来性を否定するものではないことを示しています。
ダウンラウンドが企業に与える実際の影響
ダウンラウンドは企業の内外に多面的な影響を及ぼします。
従業員への影響として、ストックオプションの価値毀損により士気低下が発生する可能性があります。
多くの企業では「リプライシング」と呼ばれるストックオプション行使価格の再設定を実施し、この問題への対処を図っています。
顧客や取引先に対しては、企業の成長性への懸念というマイナスシグナルを送ってしまうリスクがあります。
しかし、ダウンラウンドを適切に説明し、今後の成長戦略を明確に示すことで、ステークホルダーの理解を得られる場合も多いです。
財務面では、希薄化防止条項の発動により、創業者の持株比率が想定以上に低下する可能性があることも重要な影響の一つです。
まとめ【ダウンラウンドの理解が投資戦略の重要な要素】
ダウンラウンドは、前回の資金調達時よりも低い企業評価額で行われる資金調達を指します。
2022年以降の投資市場環境の変化により、国内外でダウンラウンドの発生頻度が大幅に増加しました。
ダウンラウンドの発生は、既存株主の持株価値希薄化や従業員のモチベーション低下などの課題を生じさせる可能性があります。
一方で、過度に高い企業評価の適正化や、真に優秀な企業の選別という健全化効果も期待できます。
投資家にとってダウンラウンドは、企業の真の価値を見極める重要な判断材料として機能しています。
企業側は希薄化防止条項の活用や代替的資金調達手段の検討により、ダウンラウンドの影響を軽減できる場合があります。
今後の投資戦略を考える上で、ダウンラウンドへの正しい理解と対策は不可欠な要素となっています。